フランス料理

無駄を出さないフランス料理の知恵

昨今の食品ロス問題。関連した法律もすでに施行されおり世界的に取り組むべき課題となっています。それ以前にフランス料理の厨房では、いかに無駄を出さずに使い切るかを常に考えて調理することが求められてきました。

この記事では、調理時に出る端っこや残りを使い切るヒントとして、フレンチシェフの視点から考えてみます。

一皿を構成する要素として大切に生かす

例えば野菜や果物の皮や種、もちろん骨から出るエキスを元の食材に戻して一体感を出すことをセオリーとしています。食材は美しく切り揃えられ、それらの特徴を活かした調理法でバリエーションは無数に広がります。

しかし見た目だけではなく、切り揃えられた食材の切れ端などを上手く活用できる術があるのがフランス料理の特徴です。たとえ見えない要素でもその役割を風味付けやエッセンスとして有効利用し、一皿を構成する要素として大切に生かし切ることができるのがフランス料理の魅力です。

ソースで考える使い切る方法


フランス料理と言えばソースですので実体験も踏まえながらヒントを探してみます。

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焼き汁と煮汁の活用が基本

ローストした肉を例にしてみます。専用の機器で肉を回転させながらローストする時、滴り落ちる焼き汁を集めて無駄なくソースとして利用するのが基本です。また、ポトフやシチューのように煮込み料理の煮汁もスープやソースとして具材と一緒に楽しむことで全てを味わい尽くします。

時には、固くなったパンを加えて粥状にし、ソースのとろみ付けやスープの具材として食べることでさらに無駄を出さなくすることができます。

デグラッサージュ

フランス料理の代表的な調理操作はデグラッセです。例えばソテーパンなどでステーキを焼いたときに、鍋底についたシュックと呼ばれる焼き痕のようなものを液体(水、酒、ソースなど)で煮溶かしたものをデグラッサージュといい、その操作をデグラッセと言います。

茶褐色で香ばしい風味や脂のコクを含んだこのデグラッサージュは、基本そのままソースとして使います。量を増やす場合や味に深みを出したい時は、バターやクリーム、さらにソースベースなどを加えます。

鍋底についた焼き痕をデグラッセすることで、その焼いている食材から流出したものをソースとして元の食材へ還元することができます。

りんごの皮

仏ロレーヌ地方のレストランで働いていた頃、大量のりんごを剥く仕事がありました。当然私もりんごの皮むきに参加する訳ですが、その仕事の初日に剥いたリンゴの芯と皮を、何も知らない私は当然のようにごみ箱に捨てたんですね。

「ところでリンゴの芯と皮はどうした?」「ゴミ箱です」そこの部門シェフには烈火のごとく怒られました。どうやら芯と剥いた皮を使ってコンポートの煮汁に利用するようでした。あらかじめ確認しない私も悪いのですが、初めに言ってくれよと思いましたが、後の祭りです。

後日また同じ仕事の時は、今度は芯と皮を鍋に入れてシードルを注いで、ゆっくり煮出していきます。味が出たら濾します。その煮汁は更に煮詰めて、フォアグラ料理のソースやデザートに応用していました。

絶対ソースを捨てない

ソースには多くの材料や労力が費やされています。ソースは昔も今も、一皿分の料理と同じくらい価値があり、独立している料理と言っても過言ではなく、なくてはならない存在です。

通常ソースは使う分だけ鍋で温めて使いますが、使用した後はマリーズ(ゴムベラ)でしっかりソースをぬぐい取るとあと1人分は取れる時があります。またソースが鍋肌にくっついて乾いている時があります。

その場合はソース鍋にちょっと水を入れて軽く温めて蓋をし、しばらく蒸らすとさらにもう少し取れます。一例ですがこのようにわずかな量でも、絶対無駄にしない意識付けは若い時に叩きこまれました。

ちょっと視点は違いますが忘れてはいけないのは、鍋を洗う人への配慮です。どんなに忙しくても、しっかりとソースを拭い取った鍋を整然と洗い場に置く料理人は、食材と洗い物係へのリスペクトを感じます。

ちょっと前までは鍋にソースがべっとりついたまま、洗い場に鍋を投げ込むことをしていた勘違い料理人がいました。当然今ではそのように道具やソースを粗末にするような行為は非難されます。

正直使い切るのは難しい


優れた料理人ほど計算通り材料を使います。しかしいつもそれをできるかと言えばそうでもなく、やはり難しいのが現状です。状態が良い時は翌日にも使い、それが難しそうな時はそれらを使って新たに別なものを仕込みます。それでも使い切れない時は賄にまわします。ごくたまにあるミス発注では、大量にあふれているイレギュラー食材で厨房は大変な状況になります。

次は、「何故捨てるのか」の持論が印象的だった元上司の料理長のことをかいつまんで紹介します。やや極論じみていますが参考まで。

潔く捨てる料理長の持論

無駄を出さないのがベストなのは分かっている。しかしどんなに計算して仕込んでも、状況によってどうしても残ったり使い切れない時もある。その時、その残りをどうするのかを考える必要がある。使い道が決まっているなら良いが、残った物をとりあえずキープしておくとは、どういうことか考えたことあるの?

それは場所が限られている冷蔵庫を圧迫するということ。それなら賄いに使うのが手っ取り早いし、何より捨てるよりマシかもしれない。しかし、なんでもかんでも残ったら賄い行きという単調な思考回路は、逆を言えば何も考えていない証拠で、これも良くない。賄には賄にふさわしい原価があることを忘れてはいけない。

また、その残り食材を利用してさらに副食材を追加して作った、例えばスープやソースを結局使い切れなくて、しかたなく賄い行きになったら何も意味がない。副材料を追加し時間をかけて再利用しても労力と副材料の無駄が追加されただけ。

さらに言うと、そのリメイクした料理がオーダーされない場合もある。それなら、その先の展開を想像してハナから潔く捨てるという考え方もある。そして捨てる時は、生産者さん、納品してくれた方、仕込んでくれたスタッフ、ゴミを処分してくれる取引先など、その食材に関わる人が常にいるのを忘れないこと。さらにかかった原価を思い出してから捨てろ。

と、持論を展開していました。「捨てろ」とは極論ですが、良いも悪いもいろいろなことを教えてくれた料理長でした。

フレンチの視点で参考にできる食材を無駄なく使い切る例

ブッフ・ミロトンポトフ(牛肉と野菜とブイヨンからなる三位一体のフランス料理)の残りで作るリメイク料理の代表。
硬くなったパン残ったパンの使い道は多い。パン粉、詰め物、とろみ付け、クルトン、パンペルデュなどに加工して展開させる。
卵の殻コンソメの澄まし材
野菜や果物の皮や端材ピュレ、パウダー、ブイヨン、ソース
ハーブの軸ブーケガルニ 香り付け(オイル ビネガー マリネ)
肉の脂フォアグラをソテーした時に出る脂、牛すじなどを焼いたときに出る脂を取り置きし、焼き脂や風味付け用として使う。

上記に挙げたのは既に知られたものですが、調理道具の進化やSNSによってさまざまなアイデアやレシピが世界中を駆け巡っています。それらをヒントにし応用した結果、様々な再利用法が考案されているので今後も目が離せません。

料理人が実践する基本中の基本


忘れてはいけないのは買う前に必ず残り物を確認することです。そして食材の買いだめはせず状態が良いうちに使い切るのが基本です。

捌いたときに出るガラやアラ、そして野菜の端でソースベースを作ります。プロとして大切なことは一時的ではなく、継続的にそして意識的に行うことができるかどうかです。

また余ったら賄にまわせばいいという考え方は、あまりいい解決法ではありません。買った食材すべてを、お金に換えるのが料理人の基本であり、そうしないと利益は出ません。つまり食材のあらゆるところを無駄なく加工してお客さんに還元するのが料理人の仕事です。

そう言う意味ではフランス料理の調理法は非常に優れていて、例えばソースひとつとっても無駄なく使い切る為のノウハウが詰まっています。

家庭では、プロのようにできないことは多いですが、参考にできる点があります。それは「何か使えることはないか?捨てる前にほんの少しだけ考える時間を持つこと」それを意識するだけでも、再活用できるアイデアが浮かぶかもしれません。

ぜひ参考にしてみてください。